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なく、人格高邁な人として尊敬を集めたのです。
これは日本の伝統に限ったことではありません。
たとえば、中世ヨーロッパの修道院で院長に選ばれるのは、言葉の巧みさや頭のよさによってではなく、その人の態度、立ち居ふる舞いによったそうです。なにげない身振りにこそ、その人のこころが反映される、と考えられたからで、それによってこそ人の真価が評価されるというわけです。
人を動かそうという場合でも、実力行使というのは最低の手段です。体力、武力にものをいわせて、有無をいわせず、こちらのつごうだけで相手を動かしてしまうというのは、暴力団の得意とするところ。個人であれ、国家間であれ、最後で最悪の手段です。
では、どうするか。さきほど、MINDのときの例に戻って考えてみましょう。
子供が間違いを犯したときの対処です。理性をつくし冷静に話し合うなかから学びとってもらうしかない、と申しました。しかし、忍耐強く懇切ていねいに説いて聞かせることで“理解”はしてもらえても、それで即、“納得”というわけにはいきません。
われわれの経験でも、この二つはまったく別のことだとわかります。「理解できるが、納得いかない」ということがありますし、「どこまでちゃんと理解できているか。でも、納得しちゃった」なんてこともあります。
では、人を、理解でとどまらず納得にまで導くものは何か。それは、“こころ”です。理性を越えた、いわば、こちらの存在、立ち居ふる舞いのもつ説得力とでもいいますか、それを通して“こころ”と“こころ”が触れあい、響きあうのを感じたとき、人は素直に納得してくれるのです。そして、こころから納得したとき、人はそれを自らの考えとし、存在をかけて行動に移すのです。

 

 

 

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